ザッポスの奇跡のことを思い出していた


2020年11月27日 靴を中心としたEC Zappos の元CEOトニー・シェイが亡くなった。※
Zappos のことは「ザッポスの奇跡」で知り、当時衝撃を受けたのを今でもよく覚えている。
Gaji-Labo 創業直前に読んだこともあり組織経営にあたって大事な価値観を教えてもらったと感じている。シリアルアントレプレナーとして、まだまだ大きな仕掛けをやってくれると勝手に信じていただけに、この数日は本当に暗い気持ちになった。享年46歳わかすぎる・・・。

※今年の8月にCEOを退任していたらしくザッポスのCEOと書けないこともそこはかとない悲しさを感じる。

Zappos のすごさ

改訂前のザッポスの奇跡は2009年出版で、当時 Twitter 上で小売のECをやっている人たちがとても騒いでいるのを見て手にとった記憶がある。
いまでこそ試着返品は当たり前になったが、まだまだECの流通額が少なかった頃に返品を自由とし試着目的の複数買いや色ち買いを推奨していた。小売や流通のことは詳しくないがおそらく今のECの試着のベースを作ったのは Zappos なんだろうと思う。
詳しい内容はぜひ本書を読んでいただきたいが、狂気とすら言える徹底的な顧客サポートのエピソードは目を疑うものがあった。もはやカルトのようですらある。いわく

  • ピザの注文が来ても断らず顧客に変わってピザ屋を探し取り次いだ
  • カスタマー・ロイヤルティ・チームの電話応対最長時間は7時間以上(現在ではもっと長いとのこと)
  • 旅先でお気に入りの靴を買えなかった顧客のために別の靴屋で買った商品をホテルまで直接届けた

重要なのは異質なエピソードそのものではなく、徹底的な顧客接点の重視 と顧客体験の向上に、組織として全力で取り組んでいる姿勢とそれを支える組織設計だ。(ここまで文字通りな徹底を僕は他に知らない)
この本を読んだ頃、日本では「UXデザインはおもてなしなのか」という話題でひと盛り上がりしていたような記憶がある。Web業界のなかでUXがバズワード化するちょっと前だったと思う。
ここで顧客体験がUXだと言うつもりは全くないが、「UXなんだそれまるでわからん・・・」というレベルだった僕にとって(今もまるでわからんけども)体験をここまで重視した企業姿勢というのは異世界のようにすら感じた。
小売のことは全くわからないので後で何人かに怒られそうだが、カスタマーサクセスという単語を見るたびにザッポスのことを思い出してしまうようにもなった。
(カスタマーのサクセス・・・。ここまでやらんとダメなのでは・・・。)

なにも参考にならなかったけど自信がついたこと

ザッポスの奇跡を読んで真っ先に思ったことは「すごすぎてなんの参考にもならん・・・」だった。
この本を読んで1年もしないうちに受託の制作会社を立ち上げているのだけど、業種の違いや国民性の違いを考慮したとしても、自分の行動に何かを取り込むことは全く出来なかった。
それでも Zappos の「幸福を届ける」企業文化を知って、営利企業でここまでやっても良いんだということを知れたのは本当に良かった。

「お客様の幸せのために」とか「従業員の幸せのために」とかは日本でもよく聞くフレーズだ。それでもフレーズだけで実際になにをどうすればいいのかは全然分からなかった。
結局は営利企業なのでどこかで利益を出さなければいけない。自己の利益を確保するためには他者の利益を毀損することもあるだろう。そのバランスの置き方が全く分からなかった。

Gaji-Labo は事業会社を相手にしている B2B 企業だ。当然クライアントは Gaji-Labo に対してなんらかの専門性を求めて接点を持ってくださっている。 Zappos のように専門外のこともフルスイングでお答えしようとしても質の悪いサービスにしかならない。企業間取引において質の悪いサービスは受けない方が良いことも多い。

であるならば、自分たちの専門性が活かせる分野で顧客の役に立てることを増やせばいいのではないか?
そう思って成果物の納品という形態を捨て、チームに参加してチームの要望に答える形のプロジェクトを増やしていった。今 Gaji-Labo がスタートアップや事業会社のお客様と一緒にチームの一員として日々色々な課題を乗り越えられているのは Zappos の企業文化に触れたからだと言える。
Zappos の企業文化を知らなければ、日々チームのための提案や積極的なコミットなど出来ていたか分からない。おそらく外注がそんなことをして良いのか自信が持てず多くのトラブルを見てみないふりしたことだろう。

企業文化への姿勢を見習いたい

トニー・シェイのことは書籍で知り、たまに流れてくるニュースで名前を見かけていた(ラスベガス・ダウンタウン再開発の経過が気になっている)くらいで本当は何も知らないに等しい。
それでもここまで自分の経営姿勢に影響を与えた人は他にいないかも知れない。僕にとってはスティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、イーロン・マスク、マーク・ザッカーバーグ… そんな偉人たちよりもはるかに思い入れがあり感謝している。

Zappos は社員を大事にし、企業文化にあうメンバーを集めるために様々な工夫をしていると聞く。Gaji-Labo は吹かなくても飛ぶような零細企業だ。企業文化も頑張って作ろうとしているが際立ったものはまだ何もない。それでも社員を大事にし顧客を大事にしている企業だと少しでも胸を張れるように頑張っていきたい。この訃報に触れるまでかなりサボっていたなと気付かされた。

最後に、彼が安らかに眠られるようお祈りいたします。


投稿者 Harada Naotaka

受託と事業会社の両方を経験し、沢山の事業を見てみたい気持ちで Gaji-Labo を共同創業。普段は雑用やったりプロジェクトマネジメントやったり、たまにフロントエンドのコードを書いたり。直近は Gaji-Labo をデザイン会社に転換していく課題に挑戦中。期待値コントロールにステ全振り。