ディセプティブ・デザイン(ダークパターン)を理解する


こんにちは、UIデザイナーの水澤です。

このところ読みたい本が急激に増えてきているのですが、なかなか最後まで読み切るに至らないことが多く、最近は読書のやり方を見直してみています。

読んだ内容はすぐにアウトプットすると身につきやすいため、今後はブログを活用してインプットからアウトプットまでのスパンを少しずつ短くしていく試みです。もちろんこのブログを読んでくれる方にも伝わる情報を共有していくので、お付き合いいただけたら嬉しいです。

今回読んだ本

2022年夏に発売された「ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン」です。著者は「UXライティングの教科書」を監修している UXライターの仲野 佑希さんで、デザイナーだけでなくデジタルマーケティングに携わるすべての人に向けて、ダークパターンの実態と防止策を取り上げています。

書籍の目次は下記の構成です。

  • Chapter1:ダークパターンとは何か
  • Chapter2:意思決定の科学
  • Chapter3:ダークパターンの種類
  • Chapter4:ダークパターンを防ぐために

読む前に期待していたこと

発売当時に「ダークパターン」というワードを SNS で見かけるようになり、知識として用語の定義を押さえておきたかったためです。セールスマーケティングにおける具体的な事例も紹介されているため、今後の UI設計の参考に活用したいと思いました。

UIデザイナーはユーザーのためにダークパターンを避けるべきことは理解できますが、ダークパターンが生まれる理由や背景の中でどのように回避したらいいのかについても関心がありました。

ディセプティブ・デザイン(ダークパターン)の定義

UX専門家であり認知化学の博士号を持つ Harry Brignull が 下記のように定義しています。

What is deceptive design?
Deceptive design patterns (also known as “dark patterns”) are tricks used in websites and apps that make you do things that you didn’t mean to, like buying or signing up for something.

ディセプティブ・デザインとは?
欺瞞的デザインパターン(「ダークパターン」とも呼ばれる)とは、ウェブサイトやアプリで使用されるトリックで、何かを購入したりサインアップしたりといった、意図しないことをさせるようなものです。

Harry Brignull さんの Webサイト https://www.darkpatterns.org より引用
※日本語訳は DeepL による自動翻訳

書籍によると、2022年4月頃から Brignull はダークパターンを「ディセプティブ・デザイン(人を欺くデザイン)」と表現し、上記のWebページもそのように変更したそうです。そのためこの記事でも、なるべくダークパターンではなく「ディセプティブ・デザイン」と表記しています。

ディセプティブ・デザインの具体的な基準は、下記が挙げられています。書籍の事例を見ながらどれに該当するかひとつずつ見ていくと理解しやすいと感じました。

ユーザーを欺くインターフェース=ダークパターンは、その手法ごとに仕分けると、いくつかのカテゴリーに分類できます。それらに共通しているのは、どのダークパターンも、ユーザー(消費者)に対して、次の3つのいずれかを行うように設計されている点です。

1. より多くのお金を支払わせる
2. より多くの個人情報を提供させる
3. より多くの時間を浪費させる

「ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン」より引用

特に印象的だったこと

ディセプティブ・デザインは人の意思決定を歪める

書籍では、ディセプティブ・デザインが人の意思決定に与える影響についての論文を紹介しています。その中の実験では、下記 3パターンの方法で消費者にとあるプランの加入を提案しています。

  • ディセプティブ・デザインなし
  • 緩やかなディセプティブ・デザイン
    (とあるプラン加入をデフォルトで選択された状態にする)
  • 攻撃的なディセプティブ・デザイン
    (とあるプランの加入を巧妙にしつこく引き止める)

ダークパターンの要素を持たないインターフェースの承諾率が 11% だったのに対し、「穏やかなダークパターン」は 25% と、2倍以上の承諾率を示しました。さらに、「攻撃的なダークパターン」の承諾率は最も高く 37% を示しています。

「ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン」より引用

具体的な実験内容は書籍を読んでもらえたらと思いますが、攻撃的なパターンが最もコンバージョン率が高い結論を知ると、ディセプティブ・デザインがどれほど消費者の意思決定を変えるのか理解できます。この意思決定を歪める方法には行動経済学・認知バイアス・マイクロコピーなどが用いられており、各要素の知識を深め、定期的にさらっておくことで意図しない誘導を避けられそうです。

また、緩やかなディセプティブ・デザインにおいてはユーザー本人も無自覚のうちに自分の好みとは違う不利益な選択をさせることができる点が印象的でした。事例を見ていくと「これもディセプティブ・デザインなんだ」と思うものもあり、それほどディセプティブ・デザインが日常に溶け込んでいることに気づかされます。これからは意識的に「これはディセプティブ・デザインに該当するか」という目線で観察してみると学びが多そうです。

ディセプティブ・デザインが生まれる背景と防止策

ダークパターンが生まれる背景のひとつに、組織内の「過剰なプレッシャー」があります。
(中略)
もちろん、仕事にはプレッシャーが付き物です。しかし、それが行き過ぎたものになれば、誰もが「顧客に背を向けたデザイン」を使ってしまう可能性があります。上司からの評価が下がったり、クライアントに契約を切られたりすることは、生活のかかっている従業員が最も恐れることだからです。

「ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン」より引用

例えば、過去勤めていた会社で「デザイナーは会社利益に貢献できているか」という話題が頻出されたことがあります。それによって当時の自分が会社利益だけを優先した設計をすることはありませんでしたが、KPI などの達成すべき数値が掲げられていたり、過度なプレッシャーがあった場合、会社利益だけを優先した設計を行わざるをえないと考えてしまう心理は容易に想像できます。

書籍の Chapter4 ではそのような状況を回避するためのさまざまな方法を紹介しています。その中から特に印象深かった下記について触れてみます。

「持続可能な成長」のためのノーススターメトリック
(中略)
ノーススターメトリックは、「プロダクトが顧客に対して価値提供できているかどうかを測るただひとつの」指標です。売り上げなどのビジネスの業績だけではなく、顧客側が体験する価値も向上する指標でなければなりません。

「ザ・ダークパターン ユーザーの心や行動をあざむくデザイン」より引用

世界的企業のノーススターメトリックの例として、Spotify なら「音楽の総再生時間」、Zoom なら「毎週開催されるミーティングの数」を設定しています。KPI や KGI はあくまで企業目線なのに対して、ノーススターメトリックは顧客への価値提供につながっている必要があり、本来の目的を見失わないための重要な指針だと理解できます。他社サービスを観察するときにはノーススターメトリックも合わせて想像してみると、サービス理解の解像度も高まりそうと思いました。

ここまで読み進めていくと、ディセプティブ・デザインによって短期的には利益が上がっても長期的に見た場合にリスクがあることがわかってきました。たとえユーザー本人が誘導された選択をしたと気づかなかったとしても、それは少しずつノーススターメトリックに影響を及ぼし、ユーザーはブランドに違和感を抱いたり徐々に信頼を失ったり、最終的に離れていってしまうのだと解釈しました。

そうならないためにまずはディセプティブ・デザインを理解することから始まり、回避すべき理由をステークホルダーに説明していく必要があります。

おわりに

ここまで読んでいただきありがとうございました。

今回は特に印象的な内容をピックアップし、感想や学びを書きました。書籍には UI設計の参考になる研究データや調査内容が多数掲載されているため、逆引きのように何度も読み返したいと思います。人の意思決定やディセプティブ・デザインの事例など、もっと詳しく知りたい方はぜひ書籍をご覧ください。

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投稿者 Mizusawa Minami

UIデザイナー。
サインデザインに携わった後、Web制作会社にてWebディレクターを経験。その後UI/UX設計に関心を持ち、事業会社や受託会社でUIデザインを担当。ユーザーにとって心地よい設計を考えていきます。Figmaが好き。